食物
Food
http://www2u.biglobe.ne.jp/~BLUEMAGI/TradeinGlorantha.pdf

 郊外や荒野に住む人々はだいたい食料を自給自足している(そして仮に食料が欠乏しても彼らにはそれを仕入れる資金がほとんどない)。食物を扱う商人はふつう都市で売ろうとする。食料を扱う長距離交易はほとんどありえない。
 食料はたいてい重量に比して価値が低く、輸送コストが高くつく。腐りやすいという問題もある。穀物は輸送に耐えうるだろうが、ほとんどの果物、野菜、肉類、乳製品、卵などはその地域(一日の旅程圏内)で生産されるだろう。これは都市においてもそうである(研究によれば、中世都市は、水運の便のいい川岸や海岸をのぞいて、30キロ以内の地域から物資を得ていた、とのことである)。その地域で生産されたのでないものは何らかの形で防腐処理(干物や塩漬けなど)が施されているだろう。多くの都市では文字通り都市内で家畜を飼う人々がいる。

 水運は穀物の長距離輸送を可能にするが、これには穀物を運んできて見合うだけの良好な市場が必要である。グローランサの経済の本質は農業、牧畜、狩猟採集であり、まったく自給自足的である。飢饉が起こったとしても、飢えに苦しむ人々が輸入食糧を仕入れるだけの代価を持っていることはほとんどありそうもない(これに関する地球の例としては、ここ数十年の東アフリカを想起されたい)。食糧の長距離交易はもっぱら都市を養うために存在した。都市は[長距離交易に]市場と利益をもたらすのに必要な富の集中を提供する。これがなぜ前工業化時代の都市が湾口や川岸に立地していたことの理由の一つであり、水運へのアクセスが都市を発達させる人口の集中を可能にするだけの低水準な食糧価格の維持を約束した。前工業化時代の食物の長距離輸送に関する地球の好例は古代ローマである。ローマはシチリアやエジプトの穀物に食糧供給を依存していた。

 オスリル川はジェナーテラでも最も重要な穀物輸送のルートの一つである。この地域の魔術的環境によって、オスリル川はナイル川のように定期的な洪水を起こしていると思われる。この洪水が豊かな収穫量をもたらし、輸送[するだけの余剰生産]を準備している。ポラリストール川はオスリル河谷の穀物をルナー帝国の全域へ配給する上で重要である。ルナー帝国は淡水海を抜け、ジャニューブ川を下ってフロネラに至る穀物輸送をはじめとする交易を奨励している(後述する[フロネラの項にあるルナーの対フロネラ政策にまつわる]エティーリーズのカルトに関する私の意見を見られたい)。この交易は現在戦争王国の勃興により壊滅しており(1)、ソッグ市の穀物価格は急騰して、海上交易に比重が移りつつある。

 コラリンソール湾もまた穀物を輸送する船でにぎわっている。エスロリアの穀物は湾岸一帯に供給されている。ライソス川によって内陸への輸送が行われているが、アップランド湿原によってこれより北の地域へ船を送ることは出来ない。サーターには良好な道路網があり、陸路での穀物輸送のコストが若干抑えられているので、エスロリアの穀物をドラゴン・パス一帯に運ぶことは出来る。だがこの地域は食糧に関してはまったく自給自足である。エスロリアの穀物はラリオス(ハンドラや河川交易路を通じて)、セシュネラ(ノロスウォルを通じて)、フロネラ(ソッグ市を通じて)のような遥か西の地域でも売られている。これらの諸地域では穀物価格が高水準で十分引き合うときもあるが(地元の穀物の質が悪い、戦争、エスロリアが良好な穀物を提供しているなどの理由によって)、ふつうは自給自足している。

 クラロレラの水路はその地域の余剰米を運ぶ平底荷船(2)であふれている。こうした平底荷船は東方諸島まで行くだろう(ヴォルメインには行かないであろう(3) )。だが西の地域と穀物交易をすることはなさそうである。


  1.   目先の欲に駆られて商船を襲うなど、戦争王国はまさに悪役といった感じだが、戦争王国も蛆のように湧いて出たわけではなく、彼らも各人が石弓を持ち馬に乗る、非生産者たる戦士を多数抱える以上、経済的要因から無縁ではいられない。
     彼らが商船を襲うとすれば、それは戦略的な目的から来ており、その目的はおそらくロスカルムおよびソッグ市に対する兵糧攻め、とまでは言わないまでも、食糧価格の高騰による混乱を引き起こすことにあるのではなかろうか? 強力な海軍を擁するロスカルムやソッグ市に兵糧攻めは不可能と思われるかもしれないが、かの北の海では嵐の季から海の季にかけて海が荒れて航行不能となるため、十分実効性のある作戦となる。
     だが戦争王国も、収奪だけでは補給に限界があり、困窮していると思われる。ルナー帝国としては、後述される対フロネラ穀物輸出政策(フロネラに穀物を輸出して、フロネラの食糧におけるペローリア依存を促進し、同地におけるエティーリーズの立場を強化して、セシュネラと接し、鉄を安く仕入れようとする計画)を実行するつもりなら、あるいは戦争王国に肩入れするかもしれない。ルナー帝国としてはフロネラにおける第一の勢力と結べばよく、戦争王国としてはロスカルムやソッグ市に食糧が流れなければよいのだから、両者の利害はここにおいて一致するのである。
    戦争王国とルナー帝国の間の黒い噂については、http://www.glorantha.com/greg/q-and-a/kow.html に記述がある(らしい。まだ私は読んでいない)。

  2.   多分、ジャンク船のことを言っているのだろう。中国では大河があるゆえに平底船が発達したが、クラロレラでも大閉鎖中もスアム・チョウ内海の航行は可能であったから、やはり平底船が発達したのかもしれない。
     西洋においては、キール(竜骨:船底にあって、船の全構造を支える背骨のような重要な部分)をもたない平底船は構造的に弱く、速度の遅い船として知られる(喫水が浅いところに、兵員輸送船などとして利用価値がある)が、中国のジャンクはこの構造的な弱さを船内を隔壁で仕切ることによって、速度の遅さから生じる非経済性を船を巨大化すること(キールを持たないジャンクは船体の大きさを木の長さで制限されない)で回避した。西洋の船が20世紀のタイタニック号に至っても隔壁を十分に生かせなかったことは、技術の発展が一通りでないことを示す好例だと思われる。

  3.   クラロレラの船がヴォルメインに行かない、という指摘はヴォルメインが鎖国をしていることから来ているのだろう。
     だが、我々日本人は日中間の交易が倭寇による密貿易というかたちで盛んに行われていたことを知っている。おそらく、クラロレラとヴォルメインの関係もそのようであろう。商船と海賊とは紙一重で、相手が強ければ交易するし、弱ければ襲うしで、これは倭寇もバイキングも変わらない。