繊維製品
Textiles
http://www2u.biglobe.ne.jp/~BLUEMAGI/TradeinGlorantha.pdf

 繊維製品は人類の歴史の中でもっとも早くから扱われたもっとも重要な長距離交易の商品の一つであると同時に、もっとも早くから製造されたもっとも重要な手工業製品でもある。多くの繊維製品(ここでは原料、布、既製品を含めてこう呼ぶ)は、グローランサのほかの商品と同じように地域内で生産され、輸送され、消費される。郊外の多くの家庭では衣服を自作しており、服屋は都市でのみ見出される。だが郊外の家庭でも奢侈品として質の良い既製服を買うこともあるだろう。

 交易で扱われる繊維製品の多くは「輸出工業」のシステムを通じて生産される。事業家が原料を仕入れて優れた技術を持つ生産者たちにこれを売る。生産者はたいてい家庭で仕事をする。そして事業家は生産者たちから製品を買い上げ、転売する。近代的な大規模販売のない時代では、繊維製品の大量生産はありえないが、あらかじめ作り置きの出来るマント、トーガ、サリーなどの製品はこの限りではない。いくつかの大都市では小規模な工場に匹敵する大規模な作業場が存在しうる。

 高品質な繊維製品のみが長距離を越えて交易される。もっとも重要なものにクラロレラからの絹がある。グローランサのほとんどの地域では絹は僅かにしか作られていないため、「蚕宝々 [Friendly Silkworms]」の住処である勅聴府 [Chi Ting] 製の絹織物が[グローランサの市場では]主流を占めている。クラロレラ製の他の繊維製品はもっぱら国内でしか見られない。忘却王国は潜在的に毛織物の市場となりうるが、住民があまりにも孤立的で貧しいためこれらを仕入れることはない。絹はクラロレラの主力輸出品の一つである。

 高品質の綿製品はペローリア西部やテシュノスで生産されている。テシュノスの綿は郊外で栽培され、ドムバイン [Dombain] で加工される。ここでつくられた織物は「テシュノス綿」と呼ばれ(1) 、ケタエラや西方に輸出されている。ペローリア綿はオローニン湖畔で栽培され、ポラリストール川を遡ってエルズ・アストに運ばれ、ここの職工ギルドが「エルザスト織」を作り上げる(2) 。「エルザスト織」はポラリストール川を下って淡水海を越えフロネラへ、またオスリル川を遡って帝国内部へ、さらに進んでドラゴン・パスを抜けてケタエラに輸出されている。

 フロネラの職人はオズール湾岸で栽培される亜麻を使って高品質のリンネルを生産している(3) 。布は「フロネラのポイント・リンネル」と呼ばれるこの布はノースポイントとサウスポイントで織られ、川を遡ってペローリアへ、また海路でセシュネラやケタエラに輸出されている。

 ターシュ、サーター、ヒョルトランドの羊毛はノチェットへ運ばれ、高度に組織された毛織物製造業者へと送られる。毛織物はノチェットからセシュネラ、ラリオス、フロネラなど西へ船積みされ、またドラゴン・パスを抜けてペローリアなど北へ運ばれる。


  1.   かつてインドで織られていた、「蝉の羽のように」と形容される薄さと美しさをもった織物と考えられる。

  2.   「テシュノス綿」がインド綿なら、「エルザスト織」はエジプト綿であろうか。ナイル・デルタで栽培される高級綿織物はヨーロッパではしばしば絹織物よりも高く評価されている。

  3.   日本人にはなじみの薄い亜麻だが、中央アジア原産でありながら亜寒帯で栽培され、日本でも北海道で明治期の開拓使が栽培を始めている。
     リンネルは吸水・発散性に優れることから、現代でも女性の下着(ランジェリー [lingerie] の語源になっている)やシーツ、夏用の紳士服やドレスなどに用いられており、高級品としてのイメージが定着している。
     亜麻からはさらにライン [Line] と呼ばれる丈夫な糸や、亜麻仁油 [Linseed Oil] が取れる。亜麻仁油は空気中で固化しやすく、ペンキや印刷インクに用いられる。