エティーリーズ
Etyries
http://www2u.biglobe.ne.jp/~BLUEMAGI/TradeinGlorantha.pdf

 エティーリーズは最も新しい交易カルトであり、先行する2つのカルトの構造や慣習をそれぞれ引き継いでいる。エティーリーズの商人は商取引においてイサリーズの商人と同じくらい洗練されており、ロカーノウスの商人と同じくらい国家に奉仕している。だがそれぞれに相似しているといっても、それは微妙に異なっている。ルナー教徒はこれを「“癒されたコミュニケーション”という女神のペルソナの顕現の一つ」と見なしている。

 エティーリーズのカルトはペローリアにおけるイサリーズのカルトの影響を強く受けているが、エティーリーズはその発生当初からの長いロカーノウスのカルトとの取引の伝統があり、彼らとダラ・ハッパの文化的理念の多くを共有している。エティーリーズのカルトは、他のすべてのルナー・カルトと同様に、独立した一個のカルトのみではありえず、統一国家たるルナー帝国の国教の一部分を担っている。グローランサの多くの地域で、カルトと国家とは密接に結びついているが、その結合においてルナー帝国にまさる国はない。カルトの栄光は帝国の栄光であり、帝国の栄光はカルトの栄光であって、カルトと帝国は一蓮托生である。

 エティーリーズの寺院はイサリーズの寺院とまったく同じ支援を[エティーリーズの商人たちに]行っている。加えて、彼らは利子の概念を持ち込み、銀行業務と貸付業務を発展させた。ヒョルトランドの大寺院は近代的な有限責任の原理を打ち出し、この制度に勇気付けられて募られる共同資本によって株式会社を設立さている(この場合、もし会社が倒産しても、出資者は出資額のみを失うだけで済む。普通は、出資者は会社の負債全額の債務を共有しなければならない)(1)。このような制度は莫大な運転資本の集中があって初めて可能であり、[エティーリーズのカルトは]次第に世界経済に重点を移しつつある。

 株式会社は帝国の公認を受けて初めて設立される。こうした会社はロカーノウスの先例に倣って種々の商品の独占権を与えられている。例えば、エルズ・アスト交易商会はエルザスト織の輸出に関して国法に則った完全な独占権を有している。エティーリーズの商人は国家によって厳しく統制されている。彼らは税と軍隊による保護の面で優遇を受ける代わりに、帝国の内側にあっては法律の施行、外にあっては政策の履行に関して帝国の役人を支える義務を負う。エティーリーズの商人はしばしば、愛国心やルナーの道への信仰に突き動かされて、無償で政府に有益な情報を提供している。


  1.   地球上で初めての株式会社は、1600年に設立されたオランダ東インド会社である。株式会社の設立に先立って有限責任の原理が打ち出されていたとは予想されるが、それにしても古代をイメージしたグローランサの世界にそぐわないような気もする。
     これに対して、技術の進歩は一様ではなく、グローランサでは地球と異なる商業技術の進展が見られた、とりわけこの原理はヒーロークエストによって得られたのかもしれない、という説明は説得力を持っているだろうか?
     あるいは、上述されるようにこうした銀行や株式会社といった制度は莫大な運転資本の集中があって初めて可能になるものであるが、逆に莫大な運転資本が集中されればこうした制度は自発的に考え出されるのかもしれない。何となれば、全エティーリーズ信者の資本は個々の商会ではなく、ルナー帝国が管理しているのであり、資本の総体が莫大なものになるのは必然である。ルナー帝国といえば、戦場で魔術を集中的に活用し始めたのも彼らであるが、「集中」はルナーの特徴の一つであるかもしれない。

     だが、集中された力はおおむね強みではあるが、それが失われれば途端に弱体を曝け出すことになる(イッソス、ガウガメラの戦いで敗れたペルシア帝国のように)。ルナー帝国は、この文章によれば、ヒョルトランドに莫大な投資をしているが、ルナー帝国は1625年にボールドホームを失ってヒョルトランドとの連絡を絶たれることが予定されており、このとき彼らは資本を回収できなくなり、その負担はルナー帝国全体が負うことになる。1625年の事件は、独りサーターの解放のみならず、ルナー帝国が深刻で長期にわたる経済危機に見舞われるという、重大な意義を持っている。