ロスカルムの諸属州
the Provinces of Loskalm
 
アグーリア公領
the Principality of Agria

行政府: ヒングスウェル Hingswell
州人口: 約 300,000 人
駐屯軍: 翼竜騎士団 Order of the Wyrm
 
 北ロスカルムの西岸一帯を占めるこの属州は、ネレオミ海から冷たい湿った風が、平坦な土地に点在するヒースの茂みをなぶる、荒涼とした土地である。住民は主に羊を飼って生活している。沿岸は入り江が多いが、断崖になっているため、商船の寄港に適さない。入り江のいくつかは小さな漁船の港になっているが、いくつかはイッグの海賊たちの根城になっている。
 ヒングスウェルは、ネヴス山地に降った天水をノースポイントへ送る「水道」の起点となっている。

イースヴァル公領
the Principality of Easeval

行政府: イーズ Ease
州人口: 約 200,000 人
駐屯軍: 不死鳥騎士団 Order of the Phoenix
 
 ロスカルム王国最北端のこの属州は、タストラルの遊牧民や冬の森のエルフたちの領域と境を接しており、彼らとの抗争や交易が盛んである。地味薄く冷涼であるため、農耕に適さず、人々は羊を飼っているが、エルフの許可を得た林業こそはこの属州の特筆すべき産業である。帆船の大きさはマストの高さによって制限されるため、グローランサでもっとも背の高い冬の森の木材は、遠くエスロリアからも求められる。
 イーズでは、タストラルからもたらされる皮革の加工業が盛んであり、街は異様な臭いが立ち込めている。
 かのスノーダル公はこの属州の出身であり、彼の墓もこの地にあって、今でも参詣者が絶えない。

ジョルリ公領
the Principality of Jorri

行政府: モーレン Morain
州人口: 約 300,000 人
駐屯軍: 剣馬騎士団 Order of the Unicorn
 
 南ロスカルムの一角を占めるこの属州は、属州の中央を流れるタリン川のお蔭で水が豊富であり、比較的暖かい地方であるため、タリンズ公領と並んでロスカルムの穀倉となっている。州都モーレンはタリン川の遡行限界点であり、穀類のほか、エロン樹の森の木材の積出港となっている。エロン樹の森のエルフたちは冬の森のエルフたちより気前がよく(それは、一つには彼らの落葉樹の方が成長が早いため、いま一つは彼らがニーダン山脈のドワーフたちとつねに緊張関係にあるため)、建材など日常に用いられる木材の多くはこちらから出荷されている。東部の丘陵地帯ではブドウが栽培されているが、これはグローランサにおけるブドウ栽培の北限である。ただし、そのワインの味はあまり評判がよくなく、ロスカルムの善良な市民たちが仕方なく舐めている。
 モーレンはロスカルムによるオラノール支配の拠点でもあり、兵隊を多く見かける。はるばるモーレンまで陳情に来て、肩を落として帰る蛮族たちの姿もよく見かける。

ノーランズ公領
the Principality of Norans

行政府: ノースポイント Northpoint
州人口: 約 600,000 人
駐屯軍: 黒狼騎士団 Order of the Wolf
 
 王都ノースポイントを抱えるこの属州は、ロスカルムでもっとも繁栄した属州であると同時に、もっともロスカルムの理念からかけ離れた属州となっている。州内には十分な田畑があるが、この州の富裕な市民たちは自分たちの国で採れる不味い穀類を口にしようとせず、彼らの食卓はもっぱらペローリア産の小麦で満たされている。州内の田畑では、貴婦人に贈るための種々の花々や、家畜を肥やすための穀類が生産されている。この属州はもっとも海に突出しており、大型船の寄港が可能な港があるため、漁業は盛んである。ノーランズの漁師たちはグローランサでもっとも沖合いまで漁をしに行く漁師たちであり、彼らのもたらす鯨油は、もはやノースポイント市民に欠かすことができない。彼らはイッグ諸島に群れる海獣の毛皮も取ってくる。
 ノースポイントは、フロネラで初めて「雪解け」した都市であり、他の都市に先駆けて復興し、また他の都市に復興支援の手を差し伸べた。これによって、ノースポイントはフロネラ金融界の中心地のひとつとなっており、クィンポリク同盟やアロリアン諸都市の銀行が支店を置いている。ノースポイント大学はこの国の学問の中心であるが、完全に政治機構に取り込まれており、優秀な官僚を多数輩出しているが、偉大な学者はほとんどまったく出てこない。

ポモンズ公領
the Principality of Pomons

行政府: ポモナ Pomona
州人口: 約 200,000 人
駐屯軍: グリフォン騎士団 Order of the Griffin
 
 南北ロスカルムをつなぐこの属州は、丘が点在する土地で水が得がたく、広さの割りに人はあまり住んでいない。人々は半農半牧の生活を送っている。沿岸は断崖となっており、漁業にも適さない。近年、戦争王国の興隆によってジャニューブ川の交通が危険なものとなったため、オズール湾からこの属州を経て、ジュノーラ、カルストール公国ないしジョナーテラ王国へ抜ける街道がにわかに活況を呈し始めている。
 ポモナはロスカルムによるジュノーラ支配の拠点であるが、ジュノーラ諸侯はロスカルム王国寄りであり、彼らの本拠地やオラノール支配の拠点であるモーレンほど騒然とはしていない。
 この属州の北端、サロナ一帯はサロナ辺境公の管轄するところとなっている。

タリンズ公領
the Principality of Tarins

行政府: ターンウォール Tarnwall
州人口: 約 900,000 人
駐屯軍: 赤獅子騎士団 Order of the Lion
 
 ロスカルム最南端のこの属州は、タリン川の水と温暖な気候のおかげで、ロスカルムの穀倉となっている。漁業も盛んである。
 ターンウォールはブリソスの移民たちがこの地に初めて建設した都市の一つであり、古い遺跡が多い。この街はタリン川の潮汐限界点にあって大型船の寄港も可能である。セシュネラ方面から来る船にとっては、敵対的なアロラニートやエロン樹の森の沿岸を越えて初めて寄港できる港であり、舶来品はノースポイントやサウスポイントに比べて安い。また、ノースポイントやサウスポイント、さらにはアロリアン諸都市の貿易商たちは、南進する際にこの街で掛け捨ての保険をかけていく。こうした保険を処理したり、積荷から相場を判断するために、貿易商たちはこの街に代理人たちを常駐させている。また彼らの手紙を主人に届けるための郵便代行業者が繁盛している。
 この属州のタリン川より北は、サウスポイント大司教座に寄進されている。

タワールズ公領
the Principality of Tarins

行政府: ヴァルスブルグ Valsburg
州人口: 約 600,000 人
駐屯軍: ガーゴイル騎士団 Order of the Gargoyle
 
 北ロスカルムとフロネラ本土の接点となっているこの属州は、ロスカルム王国の防衛戦略における最重要地点であり、いくつもの堅城がある。フロネラの一大混沌拠点であるダリス湿地とも接しており、己が腕前を試さんとする騎士たちがロスカルム中から集まってくる。ネレオミ海の寒風はネヴス山地に阻まれてこの属州までは届かず、気候は比較的温暖で、実りの多い農業を営むことができる。沿岸には磯が広がり、ロブスターや貝などが豊富である。
 ヴァルスブルグはその堅固さと美しさで世に知られた名城であり、城壁は700年間の大小の武勲で彩られている。現国王グンドレケンはヴァルスブルグ公でもある。

属州ネヴス
the Province of Nevs

行政府: ヒングスウェル(代行)
州人口: 約 100,000 人
駐屯軍: なし
 
 北ロスカルムを東西に分かつネヴス山地は、便宜的に「属州」とされているが、ロスカルム王国の支配機構には組み込まれていない。狩人たちや世捨て人たち、隠修士たちが自給自足の生活を送っている。ネヴス山地は、アグーリアを越えて吹き付けた湿ったネレオミ海からの風が吹きつけるお蔭で降水が豊かであり、その澄んだ水は種々の山草や薬草を育んでいる。山地には、門閥諸家の狩場が点在しており、手柄を立てようと躍起になっている森番たちがどこを巡回しているかをよく知らないよそ者が、この地をうろつくことはない。

サロナ辺境公領
the Dukhy of Salona

行政府: サロナ
駐屯軍: なし
 
 ロスカルム王国がジャニューブ川下流域のアケム支配のためにおいた機関であるが、アケムの諸侯はソッグ市に忠誠を誓っており、サロナ辺境公は実質的にソッグ市との折衝を任されている。サロナ市民は中央の手前勝手な命令を受け続けている辺境公に同情しているが、これまで多くの辺境公たちがソッグ市に取り込まれていた(そのおかげでサロナは平和でもあった)。

「寄進地」、サウスポイント大司教座
the Donated, the Archbishopric of Southpoint

司教座: サウスポイント
座人口: 約 600,000 人
駐屯軍: なし
 
 サウスポイント大司教座はロスカルムにおける宗教組織の頂点に立つ存在であり、国王の政策に正統性を与える役割を果たしているため、その発言力は大きく、見方によっては国王の上に立っている。実際、これまで何人かの王を廃立している。
 彼らは、新ロスカルム王国が建国されてから700年の間、各地で有徳の士たちが寄進した土地を交換したり、あるいは買収したりして一個の属州に匹敵する連続した領土を確立しようとしてきた。この寄進地の再編は、「雪解け」後の混乱で一気に進み、今日見られるような広大な「寄進地」が形成された。
 サウスポイントはロスカルムにおける宗教の中心地であるが、ロスカルム王国において司教たちは「法」を執行する裁判官の役割も担っており、サウスポイント大学も優秀な裁判官は多数輩出するが、学問は停滞している。
 「寄進地」では、オズール湾を挟んで向かい合うノーランズ公領と同じく、農業、沿岸漁業・採集、商工業、運輸業とあらゆる産業が盛んであるが、聖職者たちの干渉によって取引や認可に障害が多く、ノーランズほど職業分化の進展していない。これによって古いロスカルム社会の崩壊は避けられていると見る者と、偽善が横行していると見る者がある。