グローランサの気象
Climate in Glorantha
 

 グローランサでは、まずどの季節でも常に偏西風、ゼピュロス Zephyrus が吹いている。次に、南方で熱せられて膨張した大気は上空に堆積して北方に流れていく南風、ノトス Notus となる。この南からの大気は北上するにしたがって冷やされ、あるところまで来ると地上に降りてくるが、これが大きな歯車の一つとなり、北極からここまで吹いてくるもう一つの歯車を回すことになる。これが北の環流、ヴァリンド Valind であり、冬に向けて気温が低くなると南方からの大気が降りてくるラインが南下し、北風が強まることになる。ちなみに、このラインではつねに南方からと北極からの大気が降りてきていて、高気圧帯となる。大荒野では、局地的に熱せられた大気がここで縮小した大気循環を引き起こし、周囲の風の流れに変化を加えている。と、ここまでは地球の北半球の気象と変わりはない。
 グローランサに特異な気象に無風圏、ブラスタロス Brastalos というものがある(1) 。これは神話的な現象であり、気象学的な説明は出来ない。これは直径が 3,000km 程の円形をしていて、毎年グローランサの地表上を中心線からやや西側を軸に環状移動しており、海の季には「マガスタの渦」の南の海、火の季にはテレオスの北の海、地の季にはジェナーテラ大陸の南岸、闇の季にはグローランサのはるか西の果て、嵐の季にはルアーセラ、聖祝期にはフォンリットにある。無風圏は時計回りに回転しているらしく、これを横切ろうとする風を時計回りの方角へ歪める。この無風圏の周りをめぐる風は回転によってしばしば「疾風」の強さにまでなる。
 これらの風に加え、局地的には山脈が風と雨に大きく影響する。ジェナーテラ大陸には、西から順にニーダン、ミスラリ、東西の岩叢嶺 [Rockwood Mts.] と呼ばれる人には越えられない高さ(多分 4,000m 以上)の山脈が連なり、大陸を大きく南北に分けている。水分を含んだ風は山脈に突き当たると強制的に上昇させられるが、そうすると気圧の低下によって急激に冷やされ、風に含まれていた水分は飽和して雨となって地上に降り注ぐ。水分を手放した風は極度に乾燥して、山脈の向こう側に吹き渡ることになる。したがって、基本的に南側は山脈の南風に降雨をもたらして北側を乾燥させ、北風は山脈の北側に降雨をもたらして南側を乾燥させることになる。また、水分を幾分か保持したままの風は山脈を越えられず、東西に吹き抜けてそれぞれの地域にそれなりの降雨をもたらす。帰郷洋が大陸の南にあるため、南風は大量の水分を含んでおり、このため山脈の南側では降雨量が豊かで、大森林が形成される。エロン樹、アーストラ、秘密の花園などである。テシュノスも背後のダイアモンド山脈によって同様の恩恵を被っている。

 フロネラでは、バンザ海を吹き抜けてきた偏西風のために年間を通じて湿潤である。嵐の季から海の季にかけて強い北西風が吹き、これがニーダン山脈に突き当たって降雪をもたらす。とくに嵐の季には港に避難している船が沈没するような暴風が吹き荒れることがままある。火の季には西風が吹き、多少の降雨をもたらして風はカルマニアへと過ぎていく。地の季にはまず北西風が吹いてまとまった雨をもたらした後、風が止み、続いて湿った西風が吹くようになる。闇の季になると、一転して強い北風が吹き付けるようになる。この風は「イッグスの風」と呼ばれ、北の海で発生した冷たい嵐、マエルストームを運んでくる。

 ラリオスとセシュネラを含む西域でも、偏西風のために年間を通じて湿潤である。海の季から地の季の前半にかけて、暖かく湿った西風ないし西南風が吹き、これが東岩叢嶺山脈やミスラリ山脈に突き当たって降雨をもたらす。とくに海の季には雪解けとあいまって毎年のように水害を引き起こす。地の季の後半から嵐の季にかけてはニーダン山脈を越えて北風が吹き付けてくるが、この風は乾いていて風力もあまり強くなく、西域の人々は穏やかな冬を楽しむ。

 ペローリアでは、カリコス神の恩寵によって温暖な気候を享受している(2) 。闇の季から海の季にかけて、この地では北東風から北西風の強い風が吹く。この風は本来非常に乾いて冷たい風であるが、カリコス神によって暖められた白海の上を吹き抜けて湿った風となり、これがペローリアを覆う「何か」に妨げられて上昇し、上空で飽和して降雨をもたらす。火の季から地の季の前半にかけては弱く乾いた西南風が吹き、晴天が続く。グローランサで一番快適で、美しい夏が見られる。地の季の後半には風は西風に変わる。

 マニリアでは、海の季には弱い西風が吹く。降雨はなく、穏やかな春となる。火の季には強く湿った南風が吹きつけ、これが岩叢嶺山脈やミスラリ山脈に当たって山岳部では激しい降雨をもたらす。地の季にはぴたりと風が止み、これまた穏やかな秋となる。闇の季から嵐の季にかけて、風は基本的に北から乾いた冷たい風が吹いているが、時に東の方で乾いた嵐が発生し、迷走する。この嵐は「ガガースの嵐」と呼ばれ、予期せぬ動きがひどい被害をもたらす。

 ペントでは、闇の季から海の季かけて常に強く乾いた冷たい北風が吹き付けており、グローランサで一番寒い冬になる。海の季には竜巻がしばしば発生するが、これは「聖なる混乱」と呼ばれている。火の季には強く熱く乾燥した南風が吹きつけ、ペントは短いが暑い夏を迎える。地の季には湿り気のある弱い西風が吹き、多少の降雨をもたらす。草は青々とし、馬は肥える。

 大荒野からは「ストームブルの風」と呼ばれる局地的な大気循環が発生しており、ここから吹く熱く乾いた風は時計回りに回って四方へ吹くが、西へは偏西風によって、東へはシャンシャン山脈に妨げられて、南北へ流れていく。とくに人が多く住むプラックスにおいては、海の季から火の季にかけてには南風が吹き、火の季にはこれが強くなる。地の季には風が止む。闇の季から嵐の季にかけて、風は基本的に北から乾いた冷たい風が吹いているが、時に乾いた嵐が発生し、迷走する。この嵐は「ガガースの嵐」と呼ばれ、予期せぬ動きがひどい被害をもたらす。

 クラロレラでは、海の季には風はほとんど吹かず、晴天に恵まれる。火の季には湿った南風がシャンシャン山脈に当たって降雨をもたらす。時に、この南風に乗ってタイフーンが運ばれてきて、ひどい被害をもたらす。地の季は乾いた北風が吹き空は晴れ渡る。闇の季から嵐の季にかけては乾いた冷たい北風が容赦なく吹き付け、寒い冬を迎える。

 テシュノスでは、海の季に南風と大荒野からの風がテシュノス上空でぶつかり合って前線を形成する。この前線は火の季にはさらに発達し、雨量を増す。地の季の前半に一度風雨が止んだ後、風は東風に変わり、再び前線を形成する。闇の季から嵐の季にかけては、弱いが乾いた北風が吹き、テシュノスは乾期を迎える。

 ヴォルメインでは、海の季に西方海上で定期的に発生する低気圧を西風が運んできて、晴れたり雨が降ったりする天候を繰り返す。火の季には無風で、晴れ渡る。地の季には強い西風が吹くが、これが西南海上で発生するタイフーンをヴォルメインに運んでくる。闇の季から嵐の季にかけては冷たく湿った北西風が雪を降らせる。ヴォルメインの北側はグローランサで最も積雪量が多い。

 東方諸島では、年間を通じて東風が吹き付けるが、これは「ヴィゼラの風」と呼ばれる。この「ヴィゼラの風」と偏西風が海上でぶつかり合って、東方に被害をもたらすタイフーンを発生させている。東方諸島の海の季は無風で、雲がよどむ。火の季には湿った北風が吹き付け、雨が多い。地の季には風が四方に吹き、大荒れの天候となる。闇の季、「ヴィゼラの風」はもっとも強くなり、湿気を駆逐して晴れ渡る。嵐の季には「ヴィゼラの風」が弱まり、タイフーンを東方諸島に引き付ける。

 ジョーカー海域では、海の季には穏やかで湿った南風が吹き、暖かい雨が降る。火の季には西風が吹くが、ジルステラ西岸を除いてからりと晴れる。地の季には東風が吹くが、しばしばサイクロンが発生する。闇の季には強い西風が吹き付けるが、晴天である。嵐の季には風向が西から北に変わった後、まもなく無風となる。前半の暴風時、海は大時化となる。

 フォンリットでは、海の季にはやさしい南風が吹き、花々が咲き乱れる。火の季にはナーガン砂漠から紅い砂の混じった乾燥した風が吹き付ける。この風は「シカーノスの風」と呼ばれる。地の季の前半には東風が次第に強まり、それにしたがって雨量を増す。しばしばサイクロンが発生する。地の季の後半から闇の季にかけて西風が強まり、次第に冷たい雨を降らせる。嵐の季には風向が西から北、さらに東へとめまぐるしく変わり、海は大時化となる。聖祝期、無風圏がやってきてこの上空で拡大し、雲を四方へ散らす。この現象は「晴れわたり」と呼ばれ、北パマールテラの沿岸部でみられる最も素晴らしい眺めの一つとなっている。

 マスロ海域では、海の季は湿った北風が吹き付け、雨天が続く。火の季にはナーガン砂漠から紅い砂の混じった乾燥した風、「シカーノスの風」が吹き付ける。地の季は無風である。闇の季には西風が、嵐の季には東風が吹き付け、それぞれ降雨をもたらす

海の季の気象 Sea Season
火の季の気象 Fire Season
地の季前半の気象 Earth Season, First
地の季後半の気象 Earth Season, Later
闇の季の気象 Dakness Season
嵐の季の気象 Storm Season

  1.   地球にも無風圏は存在する。これは上述の大気環流にって生じるもので、北緯20度前後にあり、季節によって北上したり南下したりする。だが、円周運動はしない。

  2.   ペローリアでは夏は乾燥し、冬もカリコス神がいなければ乾燥していることは間違いない。そうであればペローリアはペント同様に乾燥した草原地帯になっていることだろう。このような土地に人類最初の文明の一つが発生したことは不思議であるが、当時はグローランサ全体の気候がもっと温暖であったとか、岩叢嶺山脈が無かったかして、降雨があったのだろう。
    地球でも、エジプト、メソポタミア、インダスの諸文明は今では乾燥地帯にあるが、文明発生の当時は地球全体が温暖で、これらの地域は中緯度高圧帯の南にあった。そして一度高度な文明が築かれると、人類は気候に抵抗できるようになり、文明は維持される。おそらくダラ・ハッパ文明もこのような経緯をたどったのではなかろうか。