ジェナーテラの土壌
Soil on Genertela
 

 土壌は、温度による微生物の分解活動の活発さによってほとんど決定される。それは熱帯では過剰、温帯では適度、寒帯では過少、ツンドラでは僅か、氷河では皆無であり、これによってそれぞれラトソル、褐色森林土、ポドゾル、ツンドラ土、氷河という土壌が形成される。
 造山活動によっては、固い岩盤から成る高山土と、火山灰によって赤色土(ローム)が形成される。
 また砂漠では、日夜の寒暖さと乾燥によって灰色砂漠土と、その周囲に褐色半砂漠土が形成される。

Soil

 熱帯では、微生物による分解活動が植物の養分の吸収量よりも大きいため、土が酸性化してラトソルとなる。土中に含まれる金属は酸化して表層に現れ、ジャングルの植物には毒をもつものが多くなる。
 通常の穀物栽培には適さず、原生するタロイモやバナナなどの熱帯産の高い滋養を持つ作物を改良して主食にしている。多大な努力を払って、焼畑や水田などを作ると一時的には高い生産性が期待できるが、維持を怠るとすぐに土壌が塩化する。
 自然状態の風景としてはケニアのサバンナなどを、文明の風景としてはインドシナ半島の水田地帯を思い浮かべるとよい。

 温帯では、何千何万年にもわたって落ち葉などが堆積した褐色森林土を形成している。これは、表層は痩せているが内部は地味に肥えており、牛などで引く重量有輪犂などを用いて畝を作れば生産性の高い農業を営むことができる(1)
 クラロレラおよびダラ・ハッパでは米が、ペローリアではトウモロコシが、ラリオスでは小麦が栽培されている。セシュネラの穀物の女神、セシュナはなぜかライ麦の保護者だが、やはりセシュネラでも小麦が栽培されていると思われる。これらの地域はいずれも穀倉地帯で、余剰食糧生産が高い文明を維持している。
 自然状態の風景としては日本の山野やドイツの森などを、文明の風景としては日本の水田やフランスの麦畑を思い浮かべるとよい。

 寒帯では、微生物による分解活動が弱く、腐葉土層がほとんど堆積しない。地味に乏しく、土壌も硬い。このような土壌をポドゾルという。農業にほとんど適しておらず、主に牧畜が行われる。雨量の多い地域ではタイガが形成され、林業と毛皮産業に適している。
 ペントでは遊牧が行われている。下ペローリアやフロネラでは大麦やライ麦などの耐寒性の高い作物が栽培される一方で、牧畜業・林業・毛皮産業が盛んで、これらの特産品を穀物と交換して食料を補っていると思われる。さらにフロネラではネレオミ海におけるニシン漁などが盛んであろう。グローランサにおいて遠洋航海は「大閉鎖」の後遺症のためにまったく面倒なものとなっており、ジェナーテラで産業的に遠洋航海を行っているのは唯一フロネラ(ロスカルム)のみであろう。フロネラにおける、食料の絶対的不足、木材資源の豊富さ、技術の高さがこれを可能にしている。
 自然状態の風景としてはスコットランドのヒースの生える荒地やモンゴルの草原などを、文明の風景としては北海道や北欧の牧場や麦畑、あるいはアメリカのトウモロコシ畑を思い浮かべるとよい。

 ツンドラはまったく農業に適していない。夏には良い草場となり、トナカイなど寒さに強い家畜を遊牧する者たちの生活を支えている。彼らは冬には南下して寒気を避けるが、この南にいた馬を飼う者たちはさらに南下している。この馬を飼う者たちは南下すると、農村やオアシスの民と接触することになり、交易か掠奪が行われる。
 風景としてはラップランドを思い浮かべるとよい。

 氷河地帯はトロウルたちの住処で、人間には用がない。
 風景としては南極を思い浮かべるとよい。

 高山地帯もまったく農業に適していない。山羊や羊を遊牧する者たちが夏は山に登り、冬は山を降りて里者と交わる、という暮らしを送っている。貴重な薬草の宝庫であり、鉱業も興りえ、商業的な価値は高い。もっとも利益が上がるのは山賊稼業である。
 風景としてはスイスの牧場を思い浮かべるとよい。

 マニリアでは、活発な火山活動が降灰をもたらし、赤色土(ローム)を形成している。地味に乏しく、保水性も弱い。このような土壌のため、大規模な集約農業も効果が無く、主に天水農業と放牧が行われる。耕作は楽で、木製の鍬でも行える。
 マニリアの穀物の女神、エスローラはカラス麦の保護者であるが、これは家畜の餌としてであろうか? 小麦の栽培も可能だが、収穫量は播種量の2~3倍にとどまる。オリーブやネギなど、こういう土地の方がよく育つ植物も多い。また、鏡の海は沿岸漁業に最適に思われる。
 風景としてはイタリアのオリーブ畑を思い浮かべるとよい。
 ただし、エスロリアに関してはこのマニリアの全般的な傾向には当てはまらない。というのも、エスロリアが大地の社であるということはエスロリアが世界でもっとも肥沃であることを示唆しているからである。とりあえず、マニリアのローム層の下にはステップ土(とくに黒色土)があって、エスロリアにおいては、ライソス川をはじめとする数多の河川がロームを流しさって、ステップ土が露出している、ということにしておく。ライソス川がミネラルに富んだ土壌を運んでくる、というのはアップランド湿原のためにありそうもない。

 砂漠には砂砂漠と礫砂漠があり、前者は海のように渡るだけの価値しかないが、後者はミネラルに富んでおり、水さえあれば農業は可能である。実際、オアシスでは世界でもっとも効率的な農業が営まれている。
 自然状態の風景としてはサハラ砂漠を思い浮かべるとよい。「プラックスの書」を読む限りでは、大荒野はタクラマカン砂漠やルブアルハリ砂漠のような砂砂漠ではなささそうである。
 砂漠の周囲を半砂漠土が取り巻いており、通常の土壌と境界をなしている。これも自然状態ではただのステップ草原だが、肥沃であり、灌漑施設を整えれば十分に農業が可能である。草原としても十分価値は高い。それゆえ、こういう土地は常に砂漠の遊牧民とステップの遊牧民あるいは農耕民族との争奪の場となる。
 風景としてはスペインのメセタやアナトリアのカッパドキアのような荒涼とした風景を思い浮かべるとよい。


  1.   褐色森林土は温帯に広く見られる土壌で、西ヨーロッパ、華北、アメリカ合衆国北東部がそういう土壌である。古来より集約灌漑農業である水田を利用してきた東アジアではあまり土壌の違いに大きな歴史的意義を見出せないが、西ヨーロッパでは重量有輪犂の発明が大開墾時代をもたらし、十二世紀ルネサンスや十字軍を可能にする農業生産の向上を得た。