都市、町、村の相関関係
the Rural-Urban Linkages
 

 町と村は相互依存関係にあって、農村は町に食糧を供給し、町は農村に手工業製品や治安サービスを供給する。
 村は農地の中心にあって、農民は朝に農地に出向き、夕方に村に帰ってくるため、村の範囲は農民が毎日行き来する範囲に限定される。これは日本を参照にすると、半径8町(800m)となる。したがって、村々が隣接する人口が多い地域では、ある村から次の村までの間隔が 1.6km あることになる。
 町は複数の村の中心にあって、時に村々の農民は町の定期市に赴いて食料を売って手工業製品を得たりする。定期市の頻度はその地域の豊かさに拠っているが、どの地域でも村人が数日間に一度は町を訪れることに変わりない。この町までもっとも遠くから訪れる村は、日本を参照にすると、1里(1 lieue, 4km)先である。村々が隣接する人口が多い地域では、ある町から次の町までの間隔が 8km あることになる。

 町と都市もまた相互依存関係にあるが、もはや都市は農民の生活サイクルとはあまり関係なく興る。
 まず都市は、交換が盛んに行われる交通の要所で興りうる。具体的にあげるなら、

1. 平野の中心ないし盆地:生産力の豊かな後背地を控えた物資集散の中心 (パリ、ベルリン、モスクワなど)
2. 湾頭:海と陸の結節点 (オスロ、フィラデルフィア、ボルチモア、大阪など)
3. 河川:水上交通の便
 a. 潮汐の限界点: (ロンドン、ハンブルクなど)
 b. 合流点: (ベオグラード、セントルイス、武漢など)
 c. 河口: (ニューオーリンズ、ベレムなど)
 d. 瀑布線:遡行の終点 (リッチモンド、コロンビア、オーガスタなど)
 e. 渡津:渡河点 (フランクフルト、インスブルック、ケンブリッジなど)
4. 湖畔:湖と陸の結節点 (シカゴ、大津など)
5. 谷口:山地と平野の結節点 (ミラノ、トリノなど)
6. 海峡・地峡:陸上交通と海上交通の接点 (イスタンブル、スエズなど)

といったものである。これらを便宜上、商業都市と称しておく。
 こういった自然的要因のほか、人文的要因でも都市は興りうる。それは首都などの政治都市、軍団が駐屯する軍事都市、聖地に築かれた宗教都市(門前町)である。このうち、政治都市と国内で周辺の治安を守るために築かれる軍事都市は交通の要所に置かれるため、上述の商業都市と重なる場合が多い。また、国境の要衝に築かれる軍事都市も、国境という人為的障壁の結節点となっているため、交換が盛んに行われることが多い。一方、宗教都市の場合、すでに繁栄していた都市に大寺院が築かれて聖地となる例も多いが、霊山の麓、聖人の墓、神託所など人跡稀な地が聖地となっている場合も多い。
 鉱山や換金作物の集積地、毛皮狩りの前線基地など、商品の生産地にも都市は興りうる。

 こうした都市は、自らの人口や産業を支えるために周辺の町や村を経済的に従属させており(この従属地域を後背地という)、都市圏を形成している。都市圏の範囲は都市の繁栄の規模により異なる。あるいは、獲得しうる都市圏の広さが都市の繁栄を規定する。
 この経済的主従関係にはトラブルがつきものであり、これを解決するために行政的・司法的支配(場合によっては宗教的支配も)がやはり都市圏に沿って行われることになる。こうして、本来は境界が曖昧な都市圏は行政区分として、法的に明確な境界を帯びることになる。
 先の、交通の要所上にない宗教都市や、あるいは大学都市、港湾都市といった特定の機能を帯びた都市が一つの都市圏の中に並存して、二重構造をなしている場合もある。それを表したのが上掲の図である。例として、フィレンツェとその外港リヴォルノがあり、グローランサではターシュのファーゼストと昇月ノ寺院がある。

 このような都市をつなぐ形で、街道沿いには宿場町が栄えている。宿場町は支配的な都市と違って、周辺の農村と相互依存関係にある地域依存の町に過ぎないが、つねに商人、軍隊、法官、徴税吏が往来し、その機能は都市と比べて遜色ない。宿場町は、人間、とくに荷車が一日に移動できる距離だけ間隔を置いており、これは平野では 40km 程であるが、山道ではもっと間隔が狭い。宿場町はまったく人々の往来に依存しており、何らかの事情で交易路から外れればほどなく普通の町に戻っていく。


街道沿いの集落

規模 間隔 人口 市場 商業 工業 宗教 学問
1.6km 20- 400 辺境 行商人 なし なし
8.0km 200- 1000 辺境 定期市 鍛冶屋 小寺院 寺子屋
宿場町(山地) 16.0km 200- 1200 小都市 常設市 鍛冶屋 中寺院 寺子屋
宿場町(丘陵) 32.0km 400- 2400 小都市 常設市 鍛冶屋 中寺院 寺子屋
宿場町(平野) 40.0km 500- 3000 小都市 常設市 鍛冶屋 中寺院 寺子屋
都市   2000-   大都市 中央市場 作業場 大寺院 学問所