譏伯颯人ジッボ・サルン
The Story of Jibbo Sarn
 

 むかしむかし、クラロレラのずっと北にある、羖戎不律グロンブルというところに、一人の男が住んでいました。彼は生まれてからずっと一人でした。羖戎不律は寒いところですが、夏には花々が咲き乱れる美しいところです。でも、誰もいないのは寂しいことだとずっと彼は思っていました。そういえば、クラロレラには人がたくさん住んでいるらしいです。彼はクラロレラに行ってみることにしました。

 クラロレラには本当に人がたくさんいました。それに、美しい建物、おいしい食べ物、心地よい音楽、羖戎不律には無いものがたくさんありました。友達もすぐできました。

 でも彼は、友達が自分の髪型を馬鹿にするのが気に入りませんでした。

頭頂を剃って、三つ編みを垂らすなんて、君はまるで蛮族の風体じゃないか。」
君はファッションをわかってないな。僕の故郷、羖戎不律は芸術的に洗練されていて、こういうエキセントリックな髪形が流行っているんだ。」

 でも彼は、友達がクラロレラを自慢するのも気に入りませんでした。

君みたいに田舎から来た者は、このクラロレラのすばらしさに圧倒されてしまうだろう?」
だから君は井の中の蛙だというのだ。クラロレラも確かにまあまあだけど、僕の故郷、羖戎不律にはそれ以上に、偽善や不正がなくて、精神的にも優れている。君みたいに人を小馬鹿にする人なんかいないんだ。」

 こういうことを言う彼を、クラロレラの友達は「皮肉屋さん(譏伯)」とか「気取り屋さん(颯人)」と呼びました。でも何人かの、本当に気のいい友達は、この譏伯颯人の言うことを信じて、今度は僕らを羖戎不律に連れて行ってほしい、とお願いしました。

 譏伯颯人は困ってしまいましたが、自分から言い出したことであとにも引けず、彼らを羖戎不律に連れて行くことにしました。クラロレラの友達は羖戎不律を見て、がっかりしました。

何だ、ここは。何もないじゃないか。譏伯颯人はやっぱり嘘をついていたんだ。でも…」

 譏伯颯人は嘘つき呼ばわりされたことに腹をたて、自分のしたことに恥じ入って、クラロレラの友達を殺して食べてしまいました。彼は泣きながら食べました。食べ終わると、彼は何もない羖戎不律で、また独りぼっちになってしまいました。